戻ってきた靴
- 4月10日
- 読了時間: 2分
更新日:4月21日
【 記憶 】
地面を
感じたくて
靴を脱いだ
13歳
暖かい日の
夕方だった

はじめて
素足で
アスファルトを
踏んだ
気持ちいい
そう感じると同時に
同級生の声
「なにやってんの」
驚いた
ような
呆れた
ような
そんな声
中学の
同級生ら数人と
歩いていた
わたしは
ついに
両足脱いで
足の裏で
地面を感じた
気持ちいい

その感覚が
とても
嬉しくて
履いていた
お気に入りの靴を
手放そうと思った
この頃
誰にも言えない
捨て鉢な
自分がいた
どうにでもなれと
なかば
やけくそに
そんな風に
毎日を
過ごしてたから
お気に入りだったはずの
黒いフラットシューズを
気持ちいい感覚と
引き換えに
捨てたくなった

わたしの心は
泣いていたのかもしれない
誰にも言えない
胸の内を
感情を
扱えなくて
毎日困っていた
わたしは
靴飛ばしのように
足を前へ
勢いよく
振り出した
弧を描いて
わたしの靴は
みるみる
遠くへ
飛んでいった
それをみて
わたしは
顔で笑いながら
心でこっそり
泣いていた

そうして
しばらく歩いていたら
ひとりの子が
わたしが捨てた
その靴を
大事に
拾いに行って
わざわざ
返しにきてくれた
ずいぶん遠くへ
飛ばした靴を
だまって
取りに行って
捨てた本人に
戻してきたんだ
なんでそんなことを
するのかと
度肝抜かれて
わたしは
捨てたはずの靴を
だまって受けとった
無言で渡されたはずなのに
大事にしなよ
そう言われたような気がして
さっきまで
へらへらしながら
泣いていた心が
いつしか自分の
中心に戻ってきた
自分をちゃんと大事にしなよ
そう言われたように感じて
しばらく考え込んでしまった
わたしの
人生に時々
現れる出来事
捨てたはずの
心を目の前に
出される行為
13歳の
あの時は
黒いお気に入りの靴
弧を描いて
放り出された
あの靴は
本当は
大事にしたかった
わたしの
心だったんだ


